東京高等裁判所 昭和32年(ネ)1058号 判決
一、控訴人は、昭和二十八年九月頃訴外日本産研株式会社代表者杉浦芳三の依頼により、同会社が他より借り受けるべき事業資金二十万円につき控訴人所有の前記建物の上に担保権を設定し、同人が控訴人を代理して自ら、又は第三者に委任して、これに必要な契約を締結することを承諾し、担保の方法も限定せず、右建物に関する登記済証に代る書類、白紙委任状数通、印鑑証明書数通、及び右建物を「共同債務に対する代物弁済担保として貴殿に提供」する旨を記載し、金額及び宛名欄を空白としたまま控訴人の署名捺印した「担保提供承諾書」と題する書面数通を交付したこと、
二、右杉浦芳三は、最初右書類の一部を利用して訴外小久保文雄から金員を借受け、その後これを返済したが、同年十月初旬控訴人に対しては右返済の事実を秘して、更に木上愛之助を右会社の代理人として被控訴人より金七十万円をその主張のような約定で借受け、これを担保するため、木上愛之助をして控訴人を代理し、同人より交付を受けた前記登記済証に代る書面、未使用に係る控訴人の白紙委任状、印鑑証明書及び前記担保提供承諾書を交付して被控訴人との間に、その主張のような抵当権設定及び条件付代物弁済契約を締結させたこと、
三、被控訴人は、弁済期が来たのに右債務の弁済がなかつたので、右木上愛之助に告げてその代物弁済として本件建物の所有権を取得することとし、同人を通じて控訴人より新たに印鑑証明書の交付を受けた上、これと前記書類とによつて昭和二十九年一月二十八日被控訴人主張のような代物弁済による所有権取得登記を受けたこと、
四、被控訴人においては、元来右建物を終局的に自己の所有とする希望もなかつたので、その後も木上愛之助を通じ又は直接に控訴人に対して前記債務の元利金に相当する金員を支払つて右建物の所有権を回復すべきことを勧めたところ、控訴人においては、右建物の処分は被担保債権の金額において当初控訴人の承諾した限度を超えるものであつたのでこれを意外としたけれども、被控訴人に対してはこの点を特に問題とはせず、右建物の所有権を回復するため、昭和二十九年十二月二十日被控訴人に対し、昭和三十年三月末日までに右金七十万円及びこれに対する利息に相当する金員を代金として支払つて右建物を買戻すべきことを約し、重ねて昭和二十九年十二月二十五日被控訴人に対し右買戻の約定を確認し、かつ、これに付随する被控訴人主張のような家屋明渡及び損害金支払の特約をなし、昭和三十年六月十三日にも同月二十日まで右金員支払の猶予を求めたこと、
を認めることができる。以上の認定に反する控訴人佐藤八太郎本人の原審における供述(第一、第二回)は採用しがたい。
以上認定事実によつてこれを見れば、被控訴人の本件建物所有権取得登記の原因たる契約は、控訴人の代理人杉浦芳三が控訴人より与えられた権限を逸脱して、木上愛之助をして控訴人を代理して被控訴人との間に締結させたものではあるが、被控訴人においてはかような事情を知らないで右契約を締結したものであり、控訴人においても前記各書類を交付してある関係があり、控訴人は被控訴人に対しては、杉浦芳三の権限逸脱を知りながらこれを主張して右契約に対する自己の責任を否認することはせず、代理人による右契約が有効であることを承認して被控訴人主張のような買戻に関する契約を締結したものと推認するが相当である。従つて控訴人と被控訴人との間における被控訴人主張の代物弁済契約は有効であり、控訴人は前記買戻契約に基く買戻をしないで所定期間を経過したのであるから、被控訴人より控訴人に対し、所有権に基き右家屋の明渡並びに右買戻期間の末日の翌日である昭和三十年四月一日以降右家屋明渡済に至るまで右買戻契約に付随してなされた特約に基く一箇月金二万円の割合による損害金の支払を求める本件請求は理由がある。
(斎藤 坂本 小沢)